analysis
待ち時間対策による待ち時間や在院時間の短縮や改善は、一度対策を検討し実施すれば終わるというものではありません。常に現状を把握・分析・評価し、改善していくPDCAサイクルを構築することが重要です。
「なぜ待ち時間ができるのか」で、待ち時間対策には予約を活用することが重要だと述べました。しかし、予約システムを導入しただけでは、どの程度待ち時間が改善したのか把握することができません。当初、このホームページの「導入(改善)事例」で紹介しているシステムも簡単に誰でも操作ができる「予約管理システム」でした。
しかし、それだけではどのように改善しているのかを分析・評価することができないため、待ち時間や在院時間などを把握できる「患者動静管理システム」を追加しました。
それによって、予約患者がいかに予約時間より早く来院しているか、検査にかかる時間など、その実態を正しく把握することができました。それまでの間、それらの実態が分からず、適切な対応ができていなかったことに気づきました。医療機関の待ち時間の改善事例を紹介した多くの文献に目を通しましたが、そのようなことが書かれてる事例にお目にかかったことがなかったのです。
それは、医療機関の混雑の問題は、診察までの待ち時間の問題として、そこに焦点を当て過ぎて捉えたことに原因があるかもしれません。厚生労働省が3年ごとに行っている受領行動調査のアンケートもそうですが、予約時間から診察までの待ち時間しか調べていないのです。このように在院時間全体の問題として、目が向いていなかったことから、その実態を正しく把握することができなかったのではないでしょうか。
私は、待ち行列問題の専門家ではありませんが、以前在籍した会社で、外航船の最適スピードの算出や寄港地の選択や滞在時間などを含めた運航費用の最小化などの待ち行列問題のシミュレーションモデルの開発運用に携わったことがあり、この予約システムの開発に当たっては、予約システムを導入することで、どの程度待ち時間が短縮・改善するか、簡単な診療所の待ち時間のシミュレーションモデルを作成し確認しました。
このシステムを使用して、待ち時間や在院時間を分析
した事例など、詳しくは「ストーリーで語るリスクマ
ネジメント論(リスクマネジメント事例集)」
第4章・第5章もご参照ください。
予約システムにどの程度の予約を入れるとどの程度待ち時間が改善するのか、予約率と待ち時間の関係をシミュレーションで確認してみました。来院患者数の多寡にもよりますが、そのシミュレーションでは、予約率を30%~40%にするだけでも待ち時間の大きな短縮改善効果が見込めることが分かり、予約の有効性を確認し、予約システムの開発を進めました。ただ、予約を有効に活かすには看護師による操作が不可欠で、そのために対応が遅くなり、待ち時間が長くなると本末転倒ですので、操作性には非常に気を使うと同時に現場の看護師とのテストによって操作性を高めています。
その後、開発した待ち時間や在院時間を把握するシステムも同様の要件に気を配り、開発いたしました。
そのシステムよって、ようやく現状の患者の実態を把握することができ、その分析結果に基づいて、改めて「患者の混雑や駐車場の混雑は、診察までの待ち時間にのみに原因があるのではなく、その時間を含めた患者が診療所に在院する時間」のほうが重要だと気付きました。
それを改めて確認したのは、在院時間を分析したとき、予約患者の方が、予約以外の患者よりも在院時間が長くなっていたことでした。待ち行列理論では予約した方が待ち時間が短くなり、在院時間も短くなると思い込んでいました。しかし、実態はそうではなかったのです。最初は予約患者の方が、検査などが多くそのせいで在院時間も長くなっているのだろうと推測したのですが、それも大きな差ではなく、その分析を進めた結果、予約時間よりもかなり早く来院していることが分かったのです。紹介している改善事例では、地域性もあると思われますが、予約患者は診療所に迷惑が掛からないように予約時間より30分程度早く来院していることが分かったのです。
それが分かり適切な対応ができるようになったのは、これらの実態を正しく把握できたからです。
予約システムを導入しても、そのような実態を正しく把握している診療所はほとんどないのではないでしょうか。というのは、そのような事例をみかけたことがなく、それが一般的な予約患者の行動特性なのか比較検討するものがなく、評価することもできませんでした。また、現状の予約システムでは、それらの情報を把握する機能が見当たらないからです。
従って、待ち時間対策として、来院患者の待ち時間や在院時間などの実態を把握する機能のない予約システムを導入しても、どの程度待ち時間や在院時間が改善されたのかもわからず、評価することも改善のPDCAサイクルも構築できないのです。
今回このホームページで紹介している「改善事例」は、予約システムの導入後、それらの実績を把握、分析するシステムを追加し、3年間分を分析し、改善に取り組んでいる事例です。
この事例は、予約システムとしての機能だけでなく、待ち時間や在院時間、検査時間なども把握・分析ができるシステムになっています。また、予約を有効に活かすために最も重要ともいえる予約のセットを予約日の状況を最も把握し、予想できる看護師が簡単に取り扱えるようにしたシステムです。
待ち時間対策には「予約をうまく活用する」ことが重要だと「なぜ待ち時間ができるのか」で論述しました。
しかし、待ち時間対策として、予約システムを導入しても予約だけの機能だと、それによってどれだけ改善したかはわかりません。やはり、それらの実績を把握・分析し評価できるシステムでなければ片手落ちなのです。そのシステムがあれば自然な形で、改善のためのPDCAサイクルの構築ができ、システムを最大限生かすことができるのです。
以下は、「診療予約・患者動静管理システム」の概要です。
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患者の診察までの待ち時間の分析
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このシステムを使用して、待ち時間や在院時間を分析した事例など、詳しくは「ストーリーで語るリスクマネジメント論(リスクマネジメント事例集)」第4章・第5章もご参照ください。
【参考になる関連情報】
何故、待ち時間を改善し、患者満足度の向上・リピート率の向上が必要なのでしょう。「診療所のシェアは何で決まるのか」をご参照ください。
何故待ち時間ができるのでしょう。ORの「待ち行列理論」に基づき、診療所で待ち時間ができる要因と待ち時間の対策に最も有効な方法を説明しています。「なぜ待ち時間ができるのか」をご参照ください。
予約は診療所ができる待ち時間対策として最の有効な対策です。しかし、予約システムのメリットはそれだけではありません。患者満足度の向上を図りリピート率の向上を図るためにも必要なシステムです。「予約管理が必要な理由」をご参照ください。
待ち時間を改善するためには、予約をうまく活用することだけでなく、継続的に現状を正確に把握し、正しい対策や改善策を検討するPDCAサイクルの構築が不可欠です。その必要性については、「待ち時間の把握と分析」をご参照ください。
ORの「待ち行列理論」による待ち行列対策(待ち時間対策)は予約が最も有効です。では、予約を導入すれば待ち時間は改善されるのでしょうか。それだけでは不十分です。その改善方法について説明を加えています。「待ち時間の改善方法」に記載していますので、ご参照ください。
待ち時間の改善事例ついては、「改善事例」をご参照ください。予約患者が思った以上に早く来ていることも分かります。診察までの待ち時間以上に在院時間を把握し、対応することが重要なことが分かります。
近年、予約システムは多くありますが、活用方法を間違うと待ち時間が長くなるだけでなく、患者満足度も低下します。また、予約管理だけの機能では不十分です。患者の院内の実態を把握しなければ、待ち時間がどのように改善されたかも把握できず、最も重要な改善を継続するPDCAサイクルの構築はできません。「診療予約・患者動静管理システム」をご参照ください。