howtoimprovewaitingtime
待ち時間があっても患者が増えるということは、診療所が評価されているということで、診療所の発展の礎(要因)ともなっているものです。そのため、待ち時間が長くなっても、人気がある「証(あかし)」としてあえて手を打たないところもあります。あるいは、どのように対応してよいのかわからないので、そのままにしているところも多いことでしょう。
では、何故、待ち時間対策(待ち時間の改善)に取り組まなければならないのでしょう。そして、どのように取り組めばよいのでしょうか。
待ち時間が長くなっても患者が来院してくれることに鈍感になってしまい、待ち時間が長いのが当たり前という状況が続いていると、患者から見ていつまで我慢できるのでしょうか。
待ち時間が長くなることで、いつでも別の診療所に移る可能性のある患者を多く抱えていることが最も大きなリスクとなるのですが、それ以前に、先生やスタッフにも過剰な負担をかけるリスクがあるのです。
待ち時間は、患者にストレスを与えるだけでなく、少しでも早く対応をしようとする医師や従業員にもストレスが掛かり、医療ミスの発生やインフォームド・コンセントが不十分になることもあります。
それらのリスクについては、「待ち時間のリスク」をご参照ください。
これらのリスクを理解し、これらのリスクが顕現化しないように、待ち時間対策に取り組む必要があります。また、そのような様々なリスクに派生することが分かっているため診療所も何らかの待ち時間の改善に取り組まなくてはならないわけです。
待つことが嫌な患者が他に回ることになれば、間違いなく機会損失となります。それ以上に、患者が他の診療所に移っていくリスクは、「診療所のシェアは何で決まるのか」で記述したように、サービスや患者満足度の差によるリピート率の競争になり、他によりいいところがあれば、そちらに患者が移っていくことになり、より大きなダメージを受けることになります。
従って、待ち時間の改善は、混雑してきた診療所では取り組まなくてはならない喫緊の課題の一つです。しかし、どのように待ち時間対策に取り組めばいいのか悩んでいる先生やスタッフも多いことでしょう。
待ち時間の改善で大切なことは、診療所の評価を向上させつつ、いつまでも今まで通り来てもらえるように対応していかなくてはならないのです。
上記のリスクを避けるために、待ち時間対策(待ち時間の改善)を行いますが、そのためには、まず待ち時間や在院時間などの現状を正しく把握することが重要です。
以下とともに、詳しくは、これらの内容をまとめている
「ストーリーで語るリスクマネジメント論(リスクマネ
ジメント事例集)」第4章もご参照ください。
待ち時間を改善するには、必要な情報を収集し、現状を正しく把握・分析し、改善策を検討しなくてはなりません。そして、それは一過性の取り組みではなくて、常にその取り組みを継続するPDCAサイクルを構築することが重要です。
待ち行列理論による待ち時間の正しい対策は、「待ち時間はなぜできるのか」で述べました通り、「予約をうまく活用する」ことです。
しかし、現在、予約システムを導入しても、待ち時間を正しく把握する仕組みがないため、どの程度待ち時間が改善されているか、把握できている診療所はないのではないでしょうか。
また、待ち時間だけでなく在院時間や診察時間、検査時間なども把握する必要があります。
そして、混雑を改善するためには、待ち時間よりも在院時間の把握の方が重要なのです。
待ち時間や在院時間の把握などについては、「待ち時間の把握と分析」をご参照ください。
【待ち時間と在院時間】
診察までの待ち時間と在院時間の関係は上記の通りです。駐車場や待合室の混雑の改善には、待ち時間よりも在院時間を短縮・改善する方が重要なことが分かります。
予約患者の場合の予約時間及び待ち時間と在院時間の関係をもう少し分かりやすく整理すると次の通りです。
【予約患者の待ち時間と在院時間】
上記の図からも予約時間から診察までの待ち時間の把握だけでは、診療所の駐車場や待合室の混雑に適切に対応できないことは明らかなのではないでしょうか。
実際に在院時間の分析した診療所の調査では、予約患者は予約時間よりもかなり早く来ていることがわかり、それが原因で、混雑を招いている状況も分かりました。
診療所が健全な経営を続け発展していくには、患者からの支持を得て多くの患者に来ていただかなくてはなりません。
患者からの支持を得て、多くの患者に来院してもらうには患者満足度を向上させる取り組みは欠かせません。
診療所は、診療報酬は自由診療を除いて、基本的にはどこでも価格は同じです。
立地条件は開業当初こそ大きな影響がありますが、それを過ぎれば、最も重要な要素は、医師の技量、スキルや経験あるいは見識などによるものになります。患者満足度に最も大きな影響を与えるものはコア・サービスを担う医師です。
しかし、医師だけが良くてもそれだけでは患者満足度が上がりにくいも分かってきています。
患者満足度を上げるにはスタッフが最も大きな役割を果たし、次いで建物や設備・医療機器などが影響します。
待ち時間や在院時間が長くなることも患者満足度に大きなマイナスの影響を与えます。待ち時間を含めて在院時間は患者を拘束していることになり、患者へも直接的なストレスを与え、長くなると不満が高まります。
そして、待ち時間や在院時間が長くなると診療所の駐車場や待合室は混雑し、医師やスタッフにストレスを与えます。
患者満足度に最も大きな影響を与える医師やスタッフにストレスが掛かることから職場環境が悪化し、患者への気配りがおろそかになり、患者満足度が低下します。
また、診療所が混雑することから設備面での充実を求められることになり、それもできなければ不満は高まり一層患者満足度は低下します。
このように待ち時間や在院時間が長くなってくると患者満足度に非常に大きな影響を与えるため、患者が増えてくれば増えてくるほど必ず取り組まなくてはならない課題になってきます。
下記は、サービスと患者満足度とリピート率の関係を整理したものです。(詳細は、「診療所のシェアは何で決まるのか?」の「診療所のリピート率は何で決まる?」もご参照ください。)
出所)筆者作成
【待ち行列理論からみた患者が増えない要因】
患者が少ないところや新しく開業する診療所は、待ち時間問題が関係ないかといえばそうでもないのです。
たまたま複数の患者が同じような時間に重なることがあり、新しい患者を増やすチャンスを逃すこともあります。
このようなことを予測し対応も検討しておくことが重要です。
また、新規開業時に駐車場や待合室などを狭くしておくと患者がなかなか増えない要因になります。
ORの「待ち行列理論」の応用範囲は広く、最初に患者の来院間隔や診察にかかる時間などを想定し、どの程度の駐車台数や待合室の広さ(待合室の収容人数)をどのくらいにすれば、待ち時間を30分以内に収めることができるかなどを検討するときにも役に立ちます。
待ち時間対策の著書の中には、予約システムを導入して待ち時間の短縮に取り組んでいるところや待ち時間が長くなることを前提に患者が居心地の良い環境に改善したり、患者を怒らせない接遇やクレーム対応などを実践したりしているところなどの事例を多く見受けます。
しかし、新しい予約システムや制度を導入し、その時の調査結果に基づく報告は行われても、それを継続して改善している取り組みの報告はあまりなかったように感じています。
今回紹介した「待ち時間の把握と分析」や「改善事例」で紹介したような待ち時間や在院時間の実態を把握したデータに基づいて、現状を詳細に分析し、PDCAサイクルを構築して改善結果を報告している事例はほとんどなかったように感じております。
待ち時間改善の取り組みは、改善案を検討し、実施、そして、その結果を把握分析、評価し、改善する。それを繰り返し行う仕組みづくり(PDCAサイクルの構築)が非常に大切だと考えています。
予約患者と予約以外の患者の来院時間のばらつきや在院時間、業務開始前の来院状況及び時間帯別の来院状況や在院状況、予約患者の来院率(リピート率)及び来院日や来院時間のばらつき、検査患者の在院時間などを正しく把握すれば、より適切な対応ができます。
その結果、ここで紹介する「改善事例」では、待ち時間よりも在院時間が重要になることも分かりました。
また、業務開始前の来院患者の対応や検査患者の対応などもとても重要なことが分かってきます。
さらに、「待ち時間の把握と分析」で述べていますが、予約システムを導入しても誤った運用をしてしまうと待ち時間の改善につながらないばかりか、患者満足度を低下させ、患者減少の悪循環に陥る引き金になりかねません。
しかし、正しく現状を把握し、適正に運用すると朝の混雑時の対応も予約の入れ方や運営を柔軟に対応することで、より患者満足度を上げることができます。
患者が増え待ち時間が長くなったからといって、
待合室を広くしたり、駐車台数を増やしたりすることは、
「なぜ、待ち時間ができるのか?」の「待ち行列ができる要因」の7つの要因の
「④系(システム)の中に入ることができる客の最大数(系の容量)」の増大要因に該当し、待合室の収容人数や駐車場の収容台数が増えることから、診療所の収容患者数が増えることになり、来院患者数が増え、待ち時間が長くなる可能性が高くなります。
従って、その対策を立てておかなくては、受け入れ患者数が増加し、益々待ち時間は長くなり、患者満足度が低下することになります。
待合室を広くしたり、駐車台数を増やしたりすることは、前向きな投資であり資金調達もし易いことから安易に行いがちです。
しかし、既に患者で混雑している場合は、対策を立てておかなければ、待ち時間はますます長くなり、患者満足度を下げる結果になりかねません。(確かに、待合室や駐車場が広くなり、患者の居心地はよくなりますが、待ち時間が長くなる可能性が高くなることも知っておく必要があります。)
予約システムを導入しても誤った運用をすると改善にはつながりません。
また、導入しても、導入後の待ち時間や在院時間の実態を把握しないままでは、「待ち時間の把握と分析」で記述したように、予約以外の患者よりも予約患者のほうが、在院時間が長かったことなども分からず、その対策を打つこともできません。
このように、患者の動静データに基づいて、現状を正しく把握することが重要です。そうすることでより適切で有効な対策をとることができます。
最も効果的な待ち時間対策は、よくコンビニやスーパーでみられるようにレジが混雑しだすとすぐに使っていないレジをオープンし、待ち時間を短縮する対処方法です。
このように処理窓口を増やすのが最も簡単で効果的な待ち時間対策になります。
診療所もそのようにできればよいのですが、医師を簡単に増やすことはできません。
そうすると、混んできたときに患者の来院間隔を長くし、患者の来院数を減らすと同時に、診察や検査、処置などのスピードアップを図るなどの手立てができれば効果的です。
このように来院患者に診察や処置あるいは検査などの状況に合わせて来院していただくことが予約制の効果です。そして、予約で事前に来る患者の準備をするなど、予約制を正しく活用し、運用すれば、待ち時間や在院時間は着実に短縮・改善していきます。また、予約を活用することで、患者の重篤化を防止することもできます。
なお、「待ち時間の短縮と改善」もご参照ください。
詳しくは、これらの内容をまとめている「ストーリーで語るリスクマネジメント論(リスクマネジメント事例集)」第4章もご参照ください。
上記などの悩みを解決するヒントが下記のサイトにあります。ご参照ください。
【参考になる関連情報】
何故、待ち時間を改善し、患者満足度の向上・リピート率の向上が必要なのでしょう。「診療所のシェアは何で決まるのか」をご参照ください。
何故待ち時間ができるのでしょう。ORの「待ち行列理論」に基づき、診療所で待ち時間ができる要因と待ち時間の対策に最も有効な方法を説明しています。「なぜ待ち時間ができるのか」をご参照ください。
予約は診療所ができる待ち時間対策として最の有効な対策です。しかし、予約システムのメリットはそれだけではありません。患者満足度の向上を図りリピート率の向上を図るためにも必要なシステムです。「予約管理が必要な理由」をご参照ください。
待ち時間を改善するためには、予約をうまく活用することだけでなく、継続的に現状を正確に把握し、正しい対策や改善策を検討するPDCAサイクルの構築が不可欠です。その必要性については、「待ち時間の把握と分析」をご参照ください。
ORの「待ち行列理論」による待ち行列対策(待ち時間対策)は予約が最も有効です。では、予約を導入すれば待ち時間は改善されるのでしょうか。それだけでは不十分です。その改善方法について説明を加えています。「待ち時間の改善方法」に記載していますので、ご参照ください。
待ち時間の改善事例ついては、「改善事例」をご参照ください。予約患者が思った以上に早く来ていることも分かります。診察までの待ち時間以上に在院時間を把握し、対応することが重要なことが分かります。
近年、予約システムは多くありますが、活用方法を間違うと待ち時間が長くなるだけでなく、患者満足度も低下します。また、予約管理だけの機能では不十分です。患者の院内の実態を把握しなければ、待ち時間がどのように改善されたかも把握できず、最も重要な改善を継続するPDCAサイクルの構築はできません。「診療予約・患者動静管理システム」をご参照ください。
これらをまとめて整理している「ストーリーで語るリスクマネジメント論(リスクマネジメント事例集)」第4章・第5章もご参照ください。診療予約・患者動静システムを利用して、待ち時間や在院時間を分析した事例も掲載しています。